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クラシック以外の音楽にも敬意を払おう
2008.6.2 本澤なおゆき

ピアノやエレクトーン、そしてオーケストラや吹奏楽の世界では、西洋の伝統音楽、いわゆる「クラシック」の他に、ポップスとひとくくりにされる分野がある。僕も、吹奏楽のポップスアレンジをよくやっています、なんて言っているくらいなのだが、本当は「ポップス」とひとくくりにされるのには抵抗がある。

「ポップス」といっても、ジャズやロックはもちろんのこと、ラテン、ファンク、R&Bからライト・クラシックまで様々なものが含まれる。さらには、「ジャズ」は、デキシーランドやスウィング・ジャズ、モダン・ジャズなどに、「ラテン」は、ルンバ、マンボ、チャチャ、サンバ、ボサノバ、タンゴなどに細分化される。

ここで言いたいのは、オーケストラ、吹奏楽、エレクトーンなどで、「ポップス」を演奏したり指導したりする際には、その「ポップス」はどういうスタイルのポップスなのか、そのスタイルはどこの地域でどういう歴史で成り立ったのか、どのテンポでどういう雰囲気にしたら良いのか、などを良く考えた方が良いということだ。

これまで、オーケストラ、吹奏楽、エレクトーンのいずれにおいても、果たして「ポップス」に敬意を払って演奏しているのだろうか、と疑問に思う演奏に直面した事がある。楽譜に書いてあるテンポ指定を全然守らずに、テンポを早くすればノリが良くなる、という勘違いのもとに、メロディやグルーブ感やアレンジ上の仕掛けが全然活きてこない程早いテンポで演奏してしまうというケースがその1つである。グルーブ感の持続することが多い「ポップス」では、クラシック以上に「テンポ」が重要なのである。その曲その曲に適したテンポで演奏しなければ、その音楽の良さが発揮されないのである。

特に普段クラシックに携わっている音楽家の中には、ポップスの持つ深い音楽性に気が付かないか、軽視しがちな人がいる。最近耳にしたのは、エレクトーンの演奏の審査をする際に、ことごとくジャズやポップスの演奏を軽視し、クラシックの演奏ばかりに点数を付けた審査員がいたという話である。おまけにその審査員は、意図的に掛けたディストーション(音を歪ませるエフェクター)に対して「音が割れている」と評価したとのことである。エレクトーンという電子楽器をやっていながら、ディストーションを知らない訳である。かつてのディストーションを掛けたフェンダー・ローズの、あのゾクゾクするようなサウンドを一度でも聴いていたら、そんな事は言わないだろうに。

クラシックは西洋音楽のほんの一派にすぎない。その西洋音楽と世界各地の民俗音楽が衝突し、干渉し、融合した結果産まれた、さまざまな形の「ポップス」には、それぞれに深い歴史と音楽性がある。そうした「ポップス」の持つ歴史と音楽性や、それらに関わってきた多くの人々にもっと敬意を払うべきではないだろうか。


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